【山作言】2020年2月13日 空飛ぶ靴と髙山少年の失脚

小学生の頃近所の公園のブランコで靴飛ばしが流行った
ブランコに乗って片方の靴を脱げる状態にしてポーンと飛ばす
俺は誰より遠くに飛ばせるようになった

運動もあまり得意ではなかった
他の遊びでもひとより抜きん出たことがない
なのになぜかわからないが靴飛ばしだけは遠くまで飛んだんだ
俺はみんながつまらながるくらい絶好調で飛ばしていた

ある日のこと
調子に乗った俺はその日も靴を飛ばしていた
しかしいつも遊んでいた子がだんだん上手になって少し焦りもあった
いつもそうだった
実力テストでは点がいいのに範囲が決まっているテストではボロボロ
努力が嫌いで失敗ばっかりしていた

靴飛ばし王の座だけは失いたくなかった
友達はいままでの俺の記録に並んだ
必死で放った後攻の俺

見事な軌道
いままでにないこの上ない角度
靴は公園の塀を飛び越えてその向こうの通りまで飛んだ
よろこんだのも束の間

塀の向こうで信号待ちをしていたトラックの荷台に飛び込む靴
急いでブランコを止めるもすぐには止まらない
俺は片方靴 片方靴下で必死でブランコを止めて走り出す

無情にも青に変わる信号
ゆっくり走り出すトラック
片っぽだけの靴でバランス悪く追いかける幼き髙山少年
角を曲がり見えなくなるトラック
泣き出す髙山少年

買ってもらってすぐの靴だった
悲しかった
叱られることも怖くてしばらくバス停のベンチに座っていた
暗くなる 覚悟して家へ向かう
すべてが終わった気分でしょぼくれて

両親に話すと思ったほど叱られなかったと記憶している
しかし靴飛ばしは絶対禁止と言われ
「頼まれてもやるもんか」とぶすくれながら思ったものだ

次の日から靴飛ばし王の座には俺を追い詰めたその友達が君臨した
俺は文字通り 失脚 したのだった

数日後の土曜日俺は公園に寄らず早く帰った
玄関にはまだ片方だけの靴が残っていた
また悲しくなったので母に
「靴は戻ってこないけん捨てて」
と頼んだ
頼むときまた泣きそうになった

母は少し黙り 靴を持って玄関の隣に位置する台所へ行く
母はニヤッと笑い 靴をゴミ箱に 落とすように捨てた

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