暇を見つけて坂道を走っている
折り返し地点を決めて
走り始めるんだけど
何度もやめようと思う
肺から血の味がする
父に剣道を習ってたときの
稽古の記憶が蘇り
やめた剣道を続けてたら
勝とうと一切
思わなかった剣道に
勝つための工夫をしていたら
そんなもしもなことを
考えてるうちに
折り返し地点が近づき
折り返そうとする自分に
記憶の中の父が
「もう一本先の街灯まで!」
と言う
あの日座り込んだ
幼い俺をその場に残して
父の言う街灯まで
俺はラストスパートする
少し泣きながら
街灯にすがりつくように
たどりつくと
父は「止まるな!」と言い
俺は笑いながらよたよたと
坂を降り始める
しばらく降りたところで父が
「もう一度折り返し地点まで!」
と言い
俺はまた振り向いて坂を登り
さっきすがりついた
街灯のところまで走る
折り返してまたよたよたと
降り始めた俺が見あげた
あの日俺をしごいていた父は
今の俺よりずっと年下
何を思い何に悩み
どんな愛を抱えて俺に
あんなことを強いていたのか
わかるはずもないのに
すこしわかった気になって
いまより速く走れるように
家への坂道を下った