GibsonのES-225という
エレキギターを持っていた
まだみんなと出あう前だと思う
20年くらい前かも知れない
1950年代のものだと聞いていた
形や塗り
色と音に弾かれて買ったのだけれど
その当時はそのありがたみを
ちゃんと鳴らしたり味わったり
録音に残したりできないまま
お金に困って売ってしまった
結果 売っても売らなくても
困ったままだった気もするので
持っていたかったなあと
いまから見れば思うのだけれど
売ったときに素敵な思いをしたので
いいことにしている
売りに行ったのは御茶ノ水
楽器を売る場所は御茶ノ水だろうと
勝手に思っていた
買ったのは新大久保だったので
なんだかそことは
別の場所にしたかったというのもある
何件か回って
買ったときの四分の一くらいの値段で
嫌なら買いません
みたいに言われて
なんだか納得いかなくて次の店と
3件くらい回った
もうくわしくは覚えていないのだけれど
勝手にケチをつけられそうな気がして
避けていた大手のお店に最後に入った
ビンテージの買取りフロア
出てきた若い店員さんは
やはりその前の3件と同じくらいの値段を言う
いまの俺のライブをご覧になった方は
信じられないかも知れないけれど
その当時の俺はライブで
ほとんどしゃべらなかった
しゃべっても近い仲間から
「おもろないねん」とどやされて
途中でしゃべるのをやめて
うたい始めるしかないくらい
しゃべるのが苦手
あきらめかけつつ苦し紛れに
「ご 50年代のギターなんです
もう少し価値があるはずなんです」
俺が言うとその若い店員さんが変な顔をした
なにか勘違いをしていたのか
小さく首をかしげたようにも見えた
「ちょっとお待ち下さい」
彼は自動ドアで仕切られた向こうの
高そうなギターが並んでいる部屋へ消えて行った
数分後 自動ドアを開けて入って来たのは
さっきの彼ではなく
パリッとしたシャツに
生地のよさそうなベストを着て
頭を大正ロマンみたいに分けた
初老の紳士だった
なにより蝶ネクタイをしていて
それに違和感がない身のこなし
顔はしっかり覚えてないけれど
思い出そうとすると
ちょび髭が生えててもおかしくないくらい
キャラ立ち具合がすごい
細身のおじさんだった
「これですね 58年」
彼は言ったと思う
「綺麗ですね お売りになりますか」
「はい」
「失礼ですが手放される理由は」
「お お金に困りまし て」
「そうですか お辛いでしょうね」
ギターのネックを握って全体を見ている
しばらくして
「〇〇万◯千円でどうでしょう」
「え?」
前の3件より数万円高い
「だ 大丈夫なんですか?」
「これだけのギターだ
失礼がないようにしないと」
失礼がないようにしないと??
ギターに?
俺のギター 大切なギター
いいギターだったんだな
この瞬間 実は少し泣いていた
「ありがとう ございます…」
お金をもらって
手ぶらで店を出た
さすがに寂しかった
夕方の御茶ノ水の坂を
駅までとぼとぼ歩いた
いまとなっては
魔法のような 冗談のような
いい思い出でもある
それ以来 何気なく
ギターは売らない手放さない
と決めていまに至る俺だ
そもそももう
こんなに高いギターは
所有していないんだけれどね
You Tubeを観ていたら出てきて
懐かしくなって書いた
偶然には出てこないギターだと思うので
Googleに脳の中を
のぞかれてると思う(笑)
それではまた 明日の未明頃に!