小学生の頃近所の公園のブランコで靴飛ばしが流行った
ブランコに乗って片方の靴を脱げる状態にしてポーンと飛ばす
俺は誰より遠くに飛ばせるようになった
運動もあまり得意ではなかった
他の遊びでもひとより抜きん出たことがない
なのになぜかわからないが靴飛ばしだけは遠くまで飛んだんだ
俺はみんながつまらながるくらい絶好調で飛ばしていた
ある日のこと
調子に乗った俺はその日も靴を飛ばしていた
しかしいつも遊んでいた子がだんだん上手になって少し焦りもあった
いつもそうだった
実力テストでは点がいいのに範囲が決まっているテストではボロボロ
努力が嫌いで失敗ばっかりしていた
靴飛ばし王の座だけは失いたくなかった
友達はいままでの俺の記録に並んだ
必死で放った後攻の俺
見事な軌道
いままでにないこの上ない角度
靴は公園の塀を飛び越えてその向こうの通りまで飛んだ
よろこんだのも束の間
塀の向こうで信号待ちをしていたトラックの荷台に飛び込む靴
急いでブランコを止めるもすぐには止まらない
俺は片方靴 片方靴下で必死でブランコを止めて走り出す
無情にも青に変わる信号
ゆっくり走り出すトラック
片っぽだけの靴でバランス悪く追いかける幼き髙山少年
角を曲がり見えなくなるトラック
泣き出す髙山少年
買ってもらってすぐの靴だった
悲しかった
叱られることも怖くてしばらくバス停のベンチに座っていた
暗くなる 覚悟して家へ向かう
すべてが終わった気分でしょぼくれて
両親に話すと思ったほど叱られなかったと記憶している
しかし靴飛ばしは絶対禁止と言われ
「頼まれてもやるもんか」とぶすくれながら思ったものだ
次の日から靴飛ばし王の座には俺を追い詰めたその友達が君臨した
俺は文字通り 失脚 したのだった
数日後の土曜日俺は公園に寄らず早く帰った
玄関にはまだ片方だけの靴が残っていた
また悲しくなったので母に
「靴は戻ってこないけん捨てて」
と頼んだ
頼むときまた泣きそうになった
母は少し黙り 靴を持って玄関の隣に位置する台所へ行く
母はニヤッと笑い 靴をゴミ箱に 落とすように捨てた